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神戸地方裁判所 平成8年(行ウ)21号 判決

原告

藤本富士王(X1)

右法定代理人親権者父

藤本大成

右法定代理人親権者母

藤本京子

原告

藤本大成(X2)

藤本京子(X3)

被告

小野市立小野中学校生徒会

右代表者会長

甲野一郎(仮名)

右法定代理人親権者父

甲野太郎(仮名)

右法定代理人親権者母

甲野花子(仮名)

理由

一  本件請求は、原告藤本富士王及びその両親であるその余の原告らが、原告藤本富士王が在籍している中学校の生徒会である被告に対し、(一)被告が行う時間外集会について、原告藤本富士王の参加義務並びに原告藤本大成及び原告藤本京子が原告藤本富士王を参加させる義務がないことの確認、(二)被告担当の教諭が、生徒集会の際に不適切な指導をしたために原告藤本富士王が精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づく慰籍料の支払い、(三)日被告が原告藤本富士王に対し無言で清掃することを強要しているとして、その強要をしないことをそれぞれ求めたものと解される。

これらの請求のうち、(二)の請求は、中学校教師の指導内容が違法かどうかを問題にするものであるから、この教師が生徒会の担当であり、右指導が生徒会活動の際に行われたとしても、生徒会を被告として訴訟を提起することは明らかに当事者適格を誤るものであり、許されないというべきである。

二1  文部大臣が告示した中学校学習指導要領は、中学校の生徒会活動について、次のように定めている。

第一章  総則

第1 教育課程の一般的方針

1 各学校においては、法令以下この章以下に示すところに従い、生徒の人間として調和のとれた育成を目指し、地域や学校の実態及び生徒の心身の発達段階や特性等を充分に考慮して、適切な教育課程を編成するものとする。

第6 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項

1 学校においては(中略)、学校の創意工夫を生かし、全体として調和のとれた具体的な指導計画を作成するものとする。

第四章  特別活動

第1 目標

望ましい集団活動を通して、心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り、集団の一員としてよりよい生活を築こうとする自主的、実践的な態度を育てるとともに、人間としての生き方についての自覚を深め、自己を生かす能力を養う。

第2 内容

B 生徒会活動

学校の全生徒をもって組織する生徒会において、学校生活の充実や改善向上を図る活動、生徒の諸活動についての連絡調整に関する活動及び学校活動への協力活動などを行うこと。

これらの定めをみると、中学校の生徒会は、義務教育の一環として、学校に在籍する全生徒によって組織されるものであり、その活動内容は、学校の指導により、生徒の自発的、自治的な活動を通して、学校生活の充実向上を目指す集団活動であるということができる。

2  このような生徒会活動の性質、目的、及びその構成員が一〇代前半から半ばの心身の発達段階にある未成年者のみであることに照らしてみると、生徒会活動の内容が不適切であることなどを理由としてその是非を問う訴訟について、当該生徒会が当事者としてこれに対する訴訟活動をしなければならないことにより、当該生徒会活動に積極的に参加しようとする生徒の意識、情操面において悪影響を与えるおそれは大きく、また、生徒の自発的、自治的活動により学校生活の充実向上を図るという当該生徒会活動の目的、ひいては生徒会活動により実現しようとする当該学校の教育目的まで阻害されるおそれも大きいというべきである。

確かに、生徒会は、団体としての組織を備え、多数決の原理が行われ、構成員の変更にも関わらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営等団体として主要な点が確定しており、学校生活に関する様々な活動をする機関であるということはできる。しかし、これらの点も、生徒会活動が、学校教育の一貫として、心身の発展段階にある生徒達が学校生活の充実向上のために自発的、自治的な集団活動を行うという目的に基づくものであることを考慮すると、このことから直ちに生徒会活動に関する紛争について、生徒会が当事者として訴訟活動をすべきであるということはできない。

そして、本件のように中学校の生徒会活動の内容について訴訟を提起する場合は、当該学校の設置者である地方公共団体等を相手方の当事者にすることができると解されるのであり、現に原告らは小野市立小野中学校の設置者である小野市を被告として本件訴訟を提起しているのである。

したがって、生徒会活動の内容に関する請求(一)、(三)についても、被告は当事者適格を有さないと解するのが相当である。

三  よって、原告らの被告に対する本件訴えは、いずれも被告適格を有さない者に対する訴えであって不適法であり、この欠缺は補正することができないから、口頭弁論を経ずにこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 下村眞美 細川二朗)

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